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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)28号 判決

千葉県松戸市東平賀一四四番地

原告

宇佐美博

千葉県松戸市小根本五八番地

被告

松戸税務署長

塚田充彦

右指定代理人

田井幸男

高野利正

白鳥庄一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一

原告は、「被告が昭和四五年一月三一日付で原告に対してした昭和四三年分所得税更正および過少申告加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

一、原告は、昭和四四年三月一四日被告に対して昭和四三年分所得税について、課税総所得金額を四四九、〇〇〇円、所得税額を五一、二〇〇円とする確定申告をしたところ、被告は、昭和四五年一月三一日付で原告に対し、昭和四三年分の原告の総所得金額を二、三四四、九五四円、基礎控除額の控除後の課税総所得金額を二、一八七、〇〇〇円、所得税額を四八五、四〇〇円とする所得税更正および過少申告加算税額二一、七〇〇円の賦課決定をした。

二  ところで、原告の同年分の総所得金額は、同年八月一日、その所有の土地建物を代金六、〇〇〇、〇〇〇円で他に売却したことによる譲渡所得に基づく二、三四四、九五四円であるが、原告は、カネツ貿易株式会社の取締役館野整志らの違法行為によつて商品相場で損失を受け、その結果同年中に、右館野に対し前記売買代金をもつて四、五〇〇、〇〇〇円を支払わざるをえなくなり、これを支払つたから、これを雑損控除として原告の総所得金額から控除すべきである。

すなわち、原告は、館野から金を借りて、カネツ貿易株式会社に商品市場における売買取引の委託をしたが、同会社の課長伊藤康雄は、昭和三九年一〇月一二日、原告が小豆相場において「売りを買いに」と指示したのに、指示に従わず仕切らせ、原告は借金をしている弱みから、不本意ながら伊藤の処置に従い、その結果、原告は五〇〇、〇〇〇円余の損失をこうむり、また、館野は、昭和四〇年一月、相場は自分に任せよといつて、原告をして借金の弱みから不本意ながらこれに従わせ、原告が自分ですれば利益をあげることができたのに、館野が取引をした結果、利益をあげることができず、結局原告に手数料分だけの損失を与えた。原告は、右のとおり商品相場で損失を受けたため、昭和四三年中に、原告所有の土地建物を代金六、〇〇〇、〇〇〇円で他に売却して、その代金のうちの四、五〇〇、〇〇〇円をもつて館野に対する債務の弁済をするほかなくなつたものである。したがつて、原告がした右金員の支出は、館野らの違法行為によつて商品相場で損失を受けた結果やむをえずしたものであるから、雑損控除の対象とされるべきである。

そこで、原告は、昭和四四年三月八日に被告に雑損控除の申告書を提出したが、被告がこれを受け付けなかつたので、昭和四五年四月二八日に再び同申告書を被告に提出した。

そして、原告の昭和四三年分の総所得金額から右雑損控除をすると、原告の同年分所得税の課税総所得金額は零となる。

三  よつて、被告がした本件更正および過少申告加算税賦課決定は、いずれも違法であるから、その取消しを求める。と述べ、証拠として、甲第一、二号証を提出し、乙第一号証の成立は認めると述べた。

第二

被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、

請求原因第一項記載の事実は認める。

同第二項記載の事実中、原告の昭和四三年分の総所得金額が、原告が同年八月一日、その所有の土地建物を代金六、〇〇〇、〇〇〇円で他に売却したことによる譲渡所得に基づく二、三四四、九五四円であることは認める。原告が館野に対して支払つたと主張する金員が雑損控除の対象とされるべきものであること、原告が被告に雑損控除の申告書を提出したことおよび原告の昭和四三年分所得税の課税総所得金額が零であることは、いずれも否認する。その余の事実は知らない。

と述べ、被告の主張として、

原告の昭和四三年分の総所得金額二、三四四、九五四円から基礎控除額一五七、五〇〇円を控除した後の課税総所得金額は、二、一八七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満の端数は切捨て)であるから、所得税額を四八五、四〇〇円、過少申告加算税額を二一、七〇〇円とした本件更正および過少申告加算税賦課決定は、いずれも適法である。

と述べ、証拠として、乙第一号証を提出し、甲第一号証の成立は認めるが、甲第二号証の成立は知らないと述べた。

理由

一  請求原因第一項記載の事実および同第二項記載の事実中、原告の昭和四三年分の総所得金額が、原告が同年八月一日、その土地建物を代金六、〇〇〇、〇〇〇円で他に売却したことによる譲渡所得に基づく二、三四四、九五四円であることは、当事者間に争いがない。

二  原告は、商品相場で損失を受け、昭和四三年中にその所有の不動産を売却して債務の弁済をしたから、これを雑損控除として原告の総所得金額から控除すべきであると主張するが、雑損控除の対象となるのは、資産について災害または盗難もしくは横領による損失が生じた場合、あるいはその災害または盗難もしくは横領に関連してやむをえない支出をした場合におけるその損失あるいは支出に限られるところ(所得税法第七二条第一項)、原告主張の損失あるいは支出がこれらの場合における損失あるいは支出に当たらないことは、その主張自体から明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

三  そこで、原告の昭和四三年分の総所得金額二、三四四、九五四円から基礎控除額一五七、五〇〇円を控除した後の課税総所得金額は、二、一八七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満の端数は切捨て)であるから、所得税額を四八五、四〇〇円、過少申告加算税額を二一、七〇〇円とした本件更正および過少申告加算税賦課決定は、いずれも適法であつて、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用は敗訴の原告の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 青山正明 裁判官 石川善則)

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